湖岸の怪

AVRIL2008-05-23

池の周りには木道が設えてある。板を渡してあるそれではなく、繊維を縦に埋め込んだ凝った作りだ。これだと水はけがよいので雨後もすべる事が無いだろうし、水分を吸い込んだ表面はコケが生えているので足に優く、浮き上がるような歩行が素晴らしく、楽しかった。
木道にひかれて歩き始める。見上げる空は生い茂りだした木々で覆われ僅かに蒼穹が伺われるが、夏が深まるほどに暗く巨大な日陰地帯になるのだろう。
中ほどまで来たとき無患子(ムクロジ)の実が落ちていることに気つく。あたりに人気も無く、喜んで木の実拾いに取り掛かること数分。後ろから声がするので振り返ってみると、高齢の老婆が笑いながら立っていて「もくれんじの実をお拾いかい」という。
無患子というのでは?というともくれんじあるいは羽根の木だという。
お若くていいね。というので歳を聞くと九十二だという。しばし言葉を交わすと老婆はさよならをいい、もくれんじもくれんじ羽根の木羽根の木といいながら大樹の陰へ溶けるように消えていった。
本物の妖精に会ってしまった。。

  • 木蘭地(もくらんじ・もくれんじ)

 ①古くは黒味のある黄色。近世では梅谷渋(うめやしぶ)に明礬(みょうばん)を混ぜて染めた狩衣・直垂(ひたたれ)などの地。その色は赤くて黄色を帯、濃く染めたものは焦色に近い。
 ②襲(かさね)の色目。表は黄、裏は黒。