私的臘祭

AVRIL2009-12-02

今年見た目に心に嬉しかったものの一つに「描かれし夢と楽園」と副題がつけられた出光美術館ユートピア展がある。いろいろ思う要素が埋め込まれていて、中に柿右衛門もあった。
焼物の世界は技術の漏洩を嫌い極最近まで余り情報量はなかった所為か解明を試みる研究者も多く、偏執な愛好家も多い世界なので迂闊な事は言えないが、有田の泉山磁石場をテレビで見て一寸思いをめぐらせてみた。秀吉の朝鮮出兵で連れてこられた陶工によって発見された磁土鉱山だ。この鉱山が発見されてより日本で磁器が焼かれるようになる。発見は1610年頃、初代酒井田柿右衛門(1596〜1666)が活躍し始める時期とぴたり一致するのが面白い。
朝鮮半島から捕縛され連れて来られた陶工が真っ白な磁土の山を発見したときどんなに嬉しかっただろう。半ば伝説の中に埋もれる異邦人李三平の目は泉山にユートピアを見たのだろう。
佐賀県有田辺りを地図で見ると地図上でも確認される大きな窯場がいくつかある。積出港であった伊万里も近く一帯は巨大な工場のようだ。今や柿右衛門はブランドになり李三平は小さな石碑に奉られて伝説の中にいる。発掘も解明も悪くはないが、眼前の浮遊するような白い濁手の上に乗った琺瑯彩の碧・藍、朱の色に引き込まる悦楽はまた別のユートピアであり作り手の彼岸に立つような気がするから、作品の前に立つときはただ只管に無になって目と心を遊ばせる鑑賞を心掛ける。
出口に次期展示の宣伝で登場していた仁清の香炉も美しかった。楽しみである。