二千円札

夕刻散歩がてら買い物に出かけ、古本をあさって文庫を一冊買う。細かいのがなくて五千円を出すと「二千円札が入ってもよろしいでしょうか」と聞かれ、昨今珍しいので貰う。幅は千円札とほぼ同じだけれど長さが数ミリ長いのだね。出たばかりの頃、物珍しく見た覚えがあるが、改めて見ると綺麗なお札だ。表と透かしが守礼門、裏に紫式部と冷泉院と光源氏、と源氏物語の「鈴虫」詞書がある。大蔵省新聞発表を見てみると

左側に、「源氏物語絵巻」第三十八帖(じょう)「鈴虫」その二の絵の一部分に、同帖の詞書(ことばがき)の冒頭部分を重ね合わせたもの(注1)を配し、右側に、源氏物語の作者である紫式部の絵(注2)を配したものとする。

(注1) 「源氏物語絵巻」の「鈴虫」の絵及び詞書は、国宝で五島美術館所蔵。
(注2)  「紫式部日記絵巻」の一場面(「紫式部の局(つぼね)を訪(と)う斉信(なりのぶ)と実成(さねしげ)」)の絵(国宝、五島美術館所蔵)に描かれている紫式部

文字部分は縦書きを横に切った上部ということのようだ。下部を繋ぎ合わせて読んでみると、冷泉院と光源氏の背後に閼伽坏(あかつき)と水の音があって「たいそう虫の音が賑やかですね」と冗談を言い合っている場面と解釈した。銅製の仏具をガチャガチャいわせながら尼君たちが立ち働くなかで優雅に冗句を交わす貴公子、それを蔀の影から作者がのぞき見ている。実に大らか。
平安時代はチンチロリンと啼くかねたたきの事を鈴虫といったらしい。二千円札で偽札事件があったみたいだ。暫くもっていよう。。