花祭り

携帯を 忘れて嘆く 春のパノラマ
薫風を 肩に受けたり 街歩き

立ち寄った寺の境内に散った桜が美しい。と「よろしかったらあちらで甘茶など召し上がって行かれませんか。今日は花祭りなので」ご住職だろうか。促された先に小さく場が設えてあり、奥さんが招くように笑う。小さな東屋に天を指し示す格好の釈迦像、足元の簀(すのこ)の下には甘茶が満ちていて、小振りの柄杓が添えてある。取って釈迦像にかけ、手を合わすと、お茶をご馳走になった。甘茶は幼い時に口にした記憶が幽かにあるが、煎じ薬の奇妙な癖のようなものが記憶の底にきつく残っているだけで味はすっかり忘れている。口に含むと癖はまるでなく、飲み下すと後から淡い甘味を感じるが、すっと消えてなくなる。味覚で感じる甘味ではないような甘味、不思議な飲み物だった。