古書屋にて猫拾うらん夏の夕暮れ。大仏次郎「ねこのいる日々」を手に入れる。

横浜の港の見える丘公園にある大仏次郎館に霧笛という喫茶店があって、そこで七八枚をセットにして、藤田の銅版画の猫がポストカードにされて売られていた。大仏次郎泉鏡花谷崎潤一郎を三大愛猫家作家と括る人もあるほど愛猫家で有名な人である。生きている猫だけでなく絵画、玩具の猫の収集にも熱心で、中でも藤田嗣治の猫の版画のコレクションは素敵だった。藤田の猫は今でも結構出回っているのを見かけるが、器量好し猫はそれほど多くはない。大仏コレクションは美猫ぞろいだったのだ。
ポストカードを売っていた時の喫茶霧笛の主は「春風秋雨三十余年」と題された随筆でも語られている、大仏以上の愛猫家であった令夫人であった。縦横の比率大きさ全てが異なる版画からポストカードの大きさにそろえられた猫たちは暫く私の宝物であったが、友人知人の懇願にまけ、またいつでも買えるという気の緩みから手放してしまって、暫くして寄ったときには既に霧笛の主もなく、この贅沢なポストカードは幻になった。
大仏次郎の作品は読んだことがなかったが、ふとそんなことを思い出して「ねこのいる日々」を手にしてみたのだ。暑さで集中力を欠いた午後、気まぐれに頁を繰るのには中々楽しい本である。が、この本も絶版だったみたいで紹介も出来ない。。