午後派手に雷が鳴りだした。庭下駄を取り込もうと思って戸をあけて空を見上げると、頭上は不穏な黒雲に覆われだしていて、すぐに大粒の雨に呑みこまれた。西方を見ると、太陽に薄雲がかかって白熱灯のように輝いている。一瞬雨との境にいた。
黒雲の上を幾つもの雷が近づいたり遠のいたりして、出口を探して転がりまわっている。時々閃光が走り、一時おいて耳を劈く(つんざく)爆音とともに地上に降ってくる。なんだか楽しくなってぽかんと空を見上げていたら不思議な眠気に襲われた。


幼いころ雷が鳴りだすと、蚊帳が出されて、昼間から蚊帳越しに外の様子を眺めるのが楽しみだった。蚊帳の中にいると、ごろごろ様も手を出せないから安心して、稲妻が走り雷鳴轟く夕立を見物した。そのうち幼いものだから、興奮に疲れ眠ってしまう。雷の音で眠くなるのは、この時に植え付いた条件反射のようなものなのかもしれない。蚊帳に囲われ守られた眠りの世界は深く甘美だった。
そんな日の夜は目が冴えて起きていたりした。嵐が去った後の空は晴れ渡り、月の光が土間の床のように踏み固められた庭の土に照り映える。
月光と庭が作り出す陰影は、真夏の夜の忘れがたい光景だ。月は満月に近く、光は蒼く、焼かれた土は夕立にあって満ち足りている。飽かず眺め、知らず空の白む頃眠りに沈む悦楽。夏の夢