お題はどぜう

遠く富士の山影が沈む夕日を背景に浮かび上がる。開け放たれた窓に向かい祖母が背中をこごめて熱心に何かこさえている。
まな板の隅に生きたどぜうの頭を釘で打ち付け、鯵切の根元を持って、切っ先で腹を裂き内臓と中骨を除き頭を落とす。どぜうは我が身に起こったことが理解できていないみたいで、綺麗な切り身はまだぴくぴくと動いている。
家でどぜうを好んだのは祖父だけであったから、これは祖父のためだけのメニューで、濃いだしの中で牛蒡と炊かれ卵でとじられ仕上げに大量の薬味葱を載せる。卵は使わなかったかもしれない。くつくついう土鍋の中へ葱を崩しいれながら酒のあてに旨そうに食べていた。
どぜうの味はこの時知ったのであるが、駒形までわざわざ出向くほどには好きにはなれない。泥の味と小骨の舌触り。祖父の膝の上でビールの泡のほろ苦さと良くは合うと思ったが