人並

よく冷え症が悩みであるとかいう人がいる。実を言えば余りよく解らない感覚であった。寒いというのと区別がつかなかったのである。
ただ体を冷やすのはよくないと祖母がうるさい位に云っていたので着ぶくれしても一枚余計に着込むのは習慣にしていた。
少し前に風邪をひいたとき、冷える辛さを思い知った。温めても温めてもひざから下、特に爪先が氷のように冷たく、暖かくならない。壊死したように妙に重い。熱めの足湯に塩、入浴剤、いろいろ試したが冷たいままなのだ。爪先は違う次元にあるように異質なもののようだった。胃痙攣は起こすし、食べ物は受け付けない、熱で目もまわり立つこともできない。そんな中ドライアイスの様に驚くほど冷たい足先が感覚を失ってそこにある。棺桶に踏み込んだのではないかと本気で思ったくらいだった。
冷えるとはこういうことなのだ。つらいものなんだと初めて理解ができた。病は癒えたが時々足先が氷のように冷たいことがあって、それから人並に冷えて辛いと文句を言うようになったのだった。