梅の香

梅の香に虜にされて彷徨うのは恋情に突き動かされた物狂い人のようだ。
梅の香に限らず、遠く何処からとはなしに漂い来る香り、たとえば沈丁花とか金銀の木犀の香りは別次元から吹いてくる風に乗ってやってきて、鼻孔だけではなく皮膚などからも染み入って脳幹にまで至り、意識を混濁させたりする。
徒然草に、『鹿茸を鼻に当てて嗅ぐべからず。小さき虫ありて、鼻より入りて、脳を食むと言へり 。』というのがあって、ろくじょうというキノコには小さな虫がいて、嗅ぐとこの虫が脳に入って馬鹿になるといわれているそうなのである。実際に鹿茸という漢方薬は強壮薬とされてあるようで、強い匂いがするから直には嗅ぐなと言っているのかもしれないが、自然界には人ひとり別次元に取り込む落とし穴みたいなものが結構あるのだなと。。媚薬なんじゃないのそれ??
花信風 告げるだけでは 飽き足らず 心奪って 逃走す