垂直に降る雨

風を伴わない雨が降り続く。少し強く降らないと雨音がほとんどない。たまに外を通る車が水を蹴散らす音を立ててはじめて気づくほどだ。雨音は雨の日の楽しみだのに

霧雨
やっぱり降り出した霧雨が  ためらいながら押されてくる風を受けて  墨流しのようだ  その中で少しずつではあるが  私は凝結してゆく  この内部の結晶はまさか贋物ではあるまい  幼虫が蛹を予感して  不動の姿勢をとっているあれだ  休養しているのではない  疲れ切っているのでもない  一面の緑は十分濡れていながら光沢がなく  若いままに老けて見える初夏の田園  そこに立って  もちろん万物と同じに濡れて  私はその内部の結晶を  今日は快く感じている  

串田孫一 『季節の断想』 夏の記憶から

『古典との対話』というのを引っ張り出して読み直しているのだが(集中力があまりなくって弱っているときに優しい)  あれっとおもって初夏を探した。
散漫なりに毎年の今頃開くページだな...