読書感想

初めて深い水のなかをおよいだ。だれもみていないときに、ひとりでやってのけたのだ。水あび岩から向こうの岩のさきっぽまで四ストロークだった。あの〈底なし水〉については前もってじっくり考え、それから一気に飛びこんだ。わたしの下の水は黒いが、そんなことは前からわかっている。すぐにたどりついたが、からだが冷えてきた。水ぎわに白樺の皮がおちていたので、向こうにいった証拠にもちかえる。もどってくるときは六ストロークだった。じつをいうと、親たる者はたとえば岩かげにでも身をひそめて、子供がちゃんと泳ぎついたかどうかを確かめるのでなければ、わが子に深い水のなかをおよがせるべきではない。わたしに子どもができたら、このことは肝に銘じておこう。
トーベ・ヤンソン 「夏について」から  冨原眞弓訳

独特の子供の視点をひらがなに込めた名訳とおもってる。トーベ・ヤンソンという人の孤独の色がうつりこんでみえないか?