散策

車窓からの桜も良いだろうと思い立って出かけてきた博物館は展示物の入れ替えだとかで臨時休館だった。軽い気分で出てきたのであっさり帰ってもよかったのだが、一度開いた桜花が寒さで引っ込むはずもないように思いの鉾が簡単には納まらない。
野草図鑑でも探してみようと地下鉄に乗った。九段から神保町の古本屋街へ入ってみるかと普段とは違うルートを選択。遅い午後の散歩としては程好いだろう。
俎(まないた)橋を渡り適当な横道を右に折れるつもりで歩いていると古い構えの刷毛屋があった。ウインドウに予てから探していた木製の爪ブラシを見つけ、専門店のは高いだろうなと一瞬思いはしたが、以前買った店は置かなくなったみたいだし、ほかを当ってもなかったので逃したくない。
埃っぽい店内に入ると、意外に若い店主らしき人が直に出てきて「爪ブラシは三種類あります」といって丁寧に紹介してくれた。皆値段は一緒だというので一番強い豚毛も魅力だったが贅沢に馬の鬣を密に埋め込んだのを求めた。暇でもあったのか話が途切れない。暫く話し込み、急須の口用に試験管用のブラシも買って辞した。
図鑑は見つけたのだけれど、やっぱり高く、あまり気に入る品物ではなかった。急ぐことではない買い物である。ゆっくり探そうと思い帰途に着いたのだった。