夜叉

AVRIL2009-08-08

その地に夜叉塚というのがあって・・
夜叉とは、インドの神話で森林に住むとされる神霊で鬼神である。それが天竜八部衆に纏められたりして仏法を守護する者として奉らるようになる。神として奉られはするものの異形の怪物で、鬼竜の類として永劫恐れられ続ける巡り合わせなのである。確か鏡花の「夜叉が池」でも沼の精である姫の台詞に忌み嫌われる寂しい存在が故の拗ねた一言があったように思う。
立ち枯れた紫陽花の陰になるようにひっそりと立つその石碑は・・

其れは不動尊を奉る御堂のすぐ脇にあって堂を守護するように在る。

外面似菩薩内心如夜叉(げめんじぼさつないしんにょやしゃ)いう人の女を指す仏教の言葉があるくらいだから夜叉とは女なのだろう。普賢菩薩に付き従う普賢十羅刹女というのも鬼だが外形は天女、魂も奪われる程の美しい姿で現れるといいイメージがかぶる。

数日前、炎天の日中にこの夜叉塚のある寺の境内を散歩していて、踏み固めたれた地面に深くあいた蝉穴は、ひょっとしたら封じ込められた神霊としての夜叉が地上へ通う路なのではないかとか、暑さで人気の無い境内があまりに静かなのでふとそんな想いに捕らわれたことがあった。