保名

先だって見た連獅子の富十郎は傘寿(80歳)だそうだ。母は吾妻徳穂でやはり舞の名手だった。随分と前になるが国立劇場のロビーで見かけたことがある。高齢ではあったが洋装のハイカラな人で印象的だった。子供の頃テレビで見た『保名』(やすな)が富十郎のであったか徳穂であったか定かではないが、その見事さは記憶の隅にある。
安倍保名が亡き恋人の形見の小袖を抱いて、春の野を狂い歩くさまを舞踊化したもので、美しくも劇的で大変見ごたえのある内容の所作である。この安倍保名こそ、ここ数日来気にかけている白狐と恋に落ちた人間で、伝説によれば陰陽師安倍清明の父である。