吉屋信子

吉屋信子集 生霊―文豪怪談傑作選 (ちくま文庫)一寸前ちくま文庫の文豪怪談傑作集の吉屋信子を読んだ。少女小説家とか括られて文学全集にも登場しない作家なのだが文章家としての職人気質を感る。
鎌倉を散策していて出くわした、長谷の住宅街に長く続く弁柄をませたようなサモンピンクの塀の屋敷への興味のほうが先んじていたのかもしれない。春と秋数日公開されることは知っていて、ゴールデンウイークに思い切って出掛けてみたのだ。表と裏に庭を贅沢に取ったシンプルなデザインの美しい平家で、設計者吉田五十八(いそや)へは「奈良の尼寺のように」と依頼しただけのことはあり、秋篠寺のような外観を持った贅沢な屋敷だった。裏庭に面した書斎の窓から続く藤棚が満開で、ここを終の棲家とした作家の真の姿を見たように思った。
吉屋信子 (KAWADE道の手帖)古本屋で道の手帳吉屋信子を見つけ、春の散策を思い出した。
寄せられた論考にあった「誰にでも気持のよい場所としての家」アジールのような別世界を求めたのだろうとの一文がぴったり当てはまるいえだった。

聖域を意味する言葉。俗世間の法規範とは無縁の場所。不可侵の場所という意味。