文鳥

秋の始めごろの街歩きのさなかに小動物を扱うペットショップに見止めた文鳥の雛は、随分育っていて成鳥近かったが嘴の辺りがまだ幼い。父親が好きだったらしく、白と灰色の桜文鳥を飼っていて、手乗りに仕立てるべく雛から育てていたことを思い出す。羽も疎らな雛は胃が表出していて、へらで水に溶いた粟とか稗をやるのだが、満腹になるにしたがって胃袋が風船の様に膨らむ様子に、幼いながらなんとも落ち着きのない不安の様なものを感じていた。
今年古本で購入した文庫漱石夢十夜」の中に「文鳥」が入っていた。漱石文鳥は白で一羽飼で籠を凝って姿を愛でる道楽を書いていて、餌を切らして死んでしまう。死んだ鳥の重さ冷たさが蘇ってくるようで、随分昔のことではあるのに感触と言うのは死なない物だなと思った。指の上に止まったときの僅かな鳥の体温、しがみ付く爪の柔さ、桃色の足は爬虫類を想起させた。
鳥類は好きじゃない。決してなつかぬ目が怖い。  =私的臘祭 Ⅱ=