海鬼灯

何故鬼灯の音なんか思い出したのかというと、つい昨日までワールドカップを通して聞こえていたブブゼラの音階のない単調な音が記憶の中枢を刺激したからなのではないだろうか。開幕当初は、数年前イラクだったか中東の国であった試合の、男ばかりの観客による地響きのような歓声を思い起こしたが、閉幕した今は鬼灯の音と重なって耳の奥でとぐろを巻く。記憶とは妙なことを契機に甦るものなのだなあ。
うああごと前歯の間辺りに鬼灯を置き舌先で押すように音を搾り出す。ガムを咬むように何度も繰り返せなければ音を鳴らせるとはいえないから、私は鳴らせる内には入らない。それでも潮の香りのする海鬼灯を口の中で転がし遊ぶのは好きだった。江ノ島辺りの土産屋に今でも置いてあるかしら。