御舟逍遥

AVRIL2016-10-12

八日から山種で始まった速水御舟展へ。
染付の磁器の皿に乗った二個の柘榴を描いた小品から始まって制作年代順に鑑賞するように展示されていた。十七歳から死の年である40歳まで
冒頭の小品は二十七歳の時の作でありながら、はや画家円熟期の珠玉の一品なのだ。鍋島焼のごく薄手の皿は軽く弾いてみれば金属音を発し、砕け散りそうな質感を有している。
が緻密に描かれた図鑑画のような柘榴からは精気を感じることができない。この人は、命あるものを描くことが妙に不得手そうなのだ。苦しそうだと言い換えてもよいかもしれない。
写生帖が出品されていて、その迷いのない鉛筆の線を目で追っていると、緊張感に耐えられす途中で大きく息を継ぐ羽目に陥る。
鳥を描いた巻紙様の画帳があって、超絶的に上手いことはいうまでもないのだが、そこにはそれに感心するよりも先に死んだ鳥の死そのものが描かれていて、目に、というより感性に突き付けられたように迫ってくる。
それまで背筋に軽い違和感みたいなものを感じてはいたのだが、そこではっきりメフィストフェレスの存在を確信したのだった。
彼の魂はファウストのように安らぎの中へ逃れることができただろうか。