仮題 「金縛り」 原案

一度金縛りというのに遭遇したことがあって
金縛りとは本来は仏教用語で、不動明王が持つ羂索(けんさく)の威力により、敵や賊(転じて煩悩)を身動きできないようにする密教の修法であるが、浮世においては、何らかの恐怖で、或いは金銭の力でもって人の行動を阻害、束縛する事もいう。
私のは夢の内だといわれることのある方の現象で、精神医学の分野では大分研究もなされているようだ。体験した十二三の頃は恰好の分析対象として扱われることが多いようである。
であるから迂闊に語ることは控えているのだが、明らかに科学からは逸脱している事象であったと言い切れる。
現象は一週間続いた。おなじ時間に枕元の時計が止まり、現象がやんでからは何事もなかったかのように正確な時を刻む機能を取り戻したのである。故障ではなかったのだ。
怖かったのだが不思議と冷静でもあって、当時、暗記させられたばかりの祈りの文句で呪縛が解けたことを覚えている。
目を開けることはかなわなかったが、言葉を発する声は聴いていて「私が誰であるかいずれわかる」といった声は特徴的であった。
声の主にはほどなくして出会っていて、現在も現世に生きる人間である。
誰であるかわかった後に何があるのか、或いは出会ったことで既に解決しているのか。。それはわからぬままであるが。。


鏡花の怪談会に加わるつもりで一個話を用意したのだが、技術がないのがつくづく悲しい。怖い話にできるかしら。